コンテンツ制作はときに諸刃の剣になります。十分なコンテンツが供給できず苦戦することもあれば、コンテンツが多すぎてどうすればよいかわからなくなってしまうこともあります。
世界で5,600以上のホテルや関連施設を持つ、一流ホスピタリティ企業であるヒルトンも、かつては同様の問題を抱えていました。ヒルトン社 コンテンツ戦略部門 シニアディレクター、メーガン・ウォルシュ氏は、Sitecore Content Hubが同社のデジタルアセット管理戦略の基盤となったおかげで、問題が解決したばかりでなく、より大規模なコンテンツを活用したキャンペーンにまい進できるようになったと、Sitecore Experience 2019で講演しました。
ウォルシュ氏の講演では、ヒルトンのDAMの選定、統合や導入プロセス、さらにはデジタルアセットをマスターするジャーニーの最後に待っていた成果について披露されています。
さまざまな物語を大勢の人に語りつむぐ
ウォルシュ氏は、所有する何千という画像をしっかり把握する必要があった理由から語り始めました。
「ヒルトンという企業は物語をつむぐ企業なのです。現在のお客様や未来のお客様に対し、旅のインスピレーション、つまり、ヒルトンに宿泊したいというインスピレーションを与える物語をつむいでいます」。
「人事部門では、『世界最高の企業の1社で働くことが、なぜやりたいことなのか』という物語を未来の社員に語りかけます。ホテル開発部門は、『ヒルトンに投資するとなぜよいよいビジネスに結びつくのか』という物語を未来のオーナーに語りかけるのです」。
つまり、ヒルトンは大勢の人たちに伝えられる物語を豊富に持っているのです。適切なお客様に適切な物語を伝えるために、アセットやコンテンツを手動では難しい、早いペースで、しかも大規模に、パーソナライズとローカライズをおこなわなければなりませんでした。
そのためソリューションの模索は受け身ではなく、積極的におこなわれました。ヒルトンは最初はSitecoreとStylelabsには投資しませんでした。「混乱した状況だったため、すでに自社で持ち合わせていたアセットを活用したいと思ったからです」。
DAMを選択する: ヒルトンの3つの条件
DAMソリューションを選択する際に、ウォルシュ氏はチームとともに、絶対に必要な条件を3つ決めていました。
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公開/配信
ヒルトンのDAMは、システムからアセットをシームレスに引き出したり、戻したりする必要がありました。
ウォルシュ氏は次のように述べています。「単なるデジタルライブラリは望んでいませんでした。アセットを必要な場所へ送るだけでなく、必要に応じてさまざまな場所から引き出してくることも可能な製品が必要だったのです。そのため、APIの性能は重要でした。連携する他のチャネルやパートナー、その他のシステムにアセットを配信できるようにするためです」。
ウォルシュ氏は「コンテンツは最適な人物の目に留まってこそ、その価値を発揮します。コンテンツが王様だとすれば、それを配信するのが女王様で、いつどこに何を配信すべきかを理解しています」と、ジョナサン・ペレルマン氏の有名な一節を引用しました。
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相互接続性
ウォルシュ氏は続けます。「次の条件は、相互接続性という考えでした。分類学または構造化された用語で言うところのメタデータが相互接続性にとって重要になります」。
データのタグと説明を各画像に追加する作業を簡単に、継続的に、そして定期的に、またそれらの翻訳作業も容易におこないたいと考えていました。
「コンテンツの用途に関する決定にメタデータを使用したいとも思っていました。各アセットの送り先がわかるように、DAMで使用されるタグに基づいてメタデータを設定すればよいのか? それとも、別のシステムがどのアセットを呼び出すべきか理解すべきなのか? 私たちはメタデータを単なる検索機能だけでなく、配信を可能にするものと考えていました。これは当社にとって本当に重要でした」。
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優れたユーザーエクスペリエンス
ウォルシュ氏とチームの最後の条件は、テクニカルユーザー以外にもわかりやすいユーザーインターフェース(UI)を提供することでした。
「ソフトウェアはしばしばコンテンツのオーサリングエクスペリエンスを忘れてしまうことがあります。お客様に優れたユーザーエクスペリエンスを提供するために、システム側でユーザーエクスペリエンスに挑戦することの苦痛を受け入れてきました」とウォルシュ氏は話します。
そのため、ヒルトンが新しいDAMに移行した後にも同じ問題が生じないよう取り組みました。
ウォルシュ氏は続けます。「ヒルトンは広範囲にわたるユーザーベースを持っています。そのためマーケティングだけではなく、エンタープライズ向けのDAMが必要でした。社内のあらゆる部署のユーザーにテストしてもらい、アセットをすばやくかつ簡単に検索、共有、ダウンロードできるか確認しました。 また、他のユーザーにはアセットのアップロード、タグづけ、ダウンロード、共有、検索に貢献してもらいました」。
ウォルシュ氏とチーム、そして新しいDAMは、社内のエコシステム全体でテクニカルユーザーおよび非テクニカルユーザーの両者のニーズを満たす必要があったのです。
ヒルトンのDAMをリリース
市場のソリューションを評価後、ウォルシュ氏は最終的にStylelabsをテストしました。Stylelabs製品は、公開や配信、相互接続性、使いやすさについてウォルシュ氏とチームの要望を満たしていたものの、チーム以外のユーザー全員にとっても直感的なプラットフォームでなければなりませんでした。そこで、ヒルトン関係者や導入後にDAMを使うことになるユーザーの協力を得て、テストを続けました。
「投資する前に、ユーザーにとって使い勝手がよいかどうか知りたかったのです。実際、Stylelabsは使い勝手がよく、テストに見事に合格しました」とウォルシュ氏は話しました。
ウォルシュ氏は移行スピードに感激し、「担当したテクノロジープロジェクトで最短の導入でした」と話します。
以前使っていたDAMからのアセット移行を含め、ウォルシュ氏の進歩的なコンテンツ戦略が原動力となり、ヒルトンの最新デジタルアセット管理システムのリリース準備は完了しました。
「約60,000点のアセットとともにリリースした新しいDAMには、今では624,000点のアセットが含まれています。そのうち165,000点はアップロードされ個別にタグづけされているため、初期の移行や一括アップロードには含まれていないものです」。
検索件数35万回以上、ページビュー100万回以上、ユーザー3,000人以上という成果を見ると、ヒルトンのDAMに関する問いかけにウォルシュ氏は完璧に回答していることがわかります。
「ユーザーたちはちゃんと活用できていますか?」「はい、できています!」
ウォルシュ氏によると、これまでにヒルトンは4つの統合プロジェクトを完了、その結果70を超えるパートナーチャネルやアプリケーションへ約40万のアセットを配信しています。
「公開や配信は?」「はい、とどこおりなく実施できています!」
現在、ヒルトンは13のDAMを統合して得られた機能を活用しています。 アセットをサードパーティ製アプリにプッシュ送信できる、プッシュ型統合もその一部です。 他には、ウォルシュ氏が最初から希望していた、DAM内のアセットを引き出す機能もあります。
ウォルシュ氏は説明します。「たとえば、カメラマンはヒルトンの認定パートナーです。 以前はカメラマンが写真をホテルに送信すると、私のチームに転送され、その後DAMにアップロードしていました。今から考えるとかなり非効率的なプロセスでした。今はカメラマンがボタンを押すだけで写真をDAMにアップロードできるため、何日もかかっていた作業や悩みをすぐに解消できるようになりました」。
ヒルトンはDAMを使用してソーシャルメディアキャンペーンの改善も図っています。 ウォルシュ氏は、「ソーシャルメディアプラットフォームも統合し、投稿に使えるアセットを提供できるようにしました。インスタグラムや他のチャネルを通してユーザーが投稿した内容も集めています」と話します。
ユーザー生成のコンテンツ(UGC)を取り込みDAMに入れることにより、ヒルトンはそのコンテンツを他のアプリケーションにプッシュ送信したり、ソーシャルメディアのコンテンツとして再利用したりできます。
DAMテクノロジーは必要不可欠ですが、ヒルトンの導入がここまで成功しているのは、ウォルシュ氏の進歩的かつ戦略的な考え方も寄与しているといえるでしょう。
「メタデータがこの相互接続性を支えています。これは、DAM、CMS、パーソナライズプラットフォームで同じメタデータを使用しているからです。同じメタデータを一貫して使うと、システム間での対話もしやすくなるのです」。
デジタルアセット管理:もはや公然の秘密のマーケターの武器
コンテンツは王様で配信は女王様という一節を踏まえると、堅牢なデジタルアセット管理システムはマーケティング分野でコンテンツマーケティングを大規模に実施できる、光り輝く鎧をつけた騎士であると形容できます。
ウォルシュ氏の3つの条件、つまりAPIファーストの配信、相互接続性、そしてコンテンツ作成者向けのユーザーフレンドリーなエクスペリエンスは、最適なDAMを選択するための簡単なリトマス試験紙です。 DAMソリューションに投資してコンテンツ戦略を成功させたいと考えている皆様にとって、ウォルシュ氏の講演はよい事例以上に、より高い水準に達しているケースと言っても過言ではありません。
DAMについての詳細は、 Sitecore傘下のStylelabs社が制作したDAMに関する資料をご覧ください。 マーケティングコンテンツを集約するハブの重要性